第37回農業ジャーナリスト賞の決定について
農政ジャーナリストの会は、前年(2021年1月~12月)に発表された農林水産業、食料問題ならびに農山漁村の地域問題などに関するジャーナリストの優れた功績(ルポルタージュ、連載企画、出版物、放送番組など)を表彰しています。
今回は新聞・書籍部門から6点、テレビ・映像部門から6点、計12点の応募がありました。この中から、農政ジャーナリストの会が委嘱した選考委員会の審議を経て、下記の4作品が選ばれました。 6月6日開催の農政ジャーナリストの会第59回総会で表彰します。
第37回農業ジャーナリスト賞受賞作品
【農業ジャーナリスト賞】
・北日本新聞社「神の川 永遠(とわ)にー イ病勝訴50年」
・新潟放送「俺たち、ムロヤ青年会~ゆるく 楽しく 元気よく~」
・NHK山形放送局やまコレ「食べる喜びをもう一度~鶴岡 えん下のグルメ~」
【特別賞】
・柳原一德著「本とみかんと子育てと~農家兼業編集者の周防大島フィールドノート」 みずのわ出版
●「神の川 永遠(とわ)にーイ病勝訴50年」(北日本新聞社)
富山県中心部を流れ、豊かな水田地帯をつくり出した神通川。上流の鉱山(岐阜県)から流れ出たカドミウムで汚染され、農作物被害と共に起きたのが、四大公害病の一つ、イタイイタイ病だった。裁判の勝訴から50年。これを節目に、長い闘いの歴史をつなぎ、改めて検証し、絶対に風化させないという地方紙の熱意と執念が伝わる力作だ。当時の苦労や事実究明までの過程が連載され、そこで起こった偏見や差別、風評被害など今のコロナ禍に繋がるものがある。11回にわたる連載は考え抜かれた構想に基づき、一人の編集委員の取材になるもので、個人の高い力が発揮されている。当時の写真や解説も含め、読者目線をしっかり意識している点も伝わる。公害病を過去の話と葬り去られないよう後世にこの事実をきちんと伝える役割を果たしている。
●「俺たち、ムロヤ青年会~ゆるく 楽しく 元気よく~」(新潟放送)
新潟県阿賀町にある室谷青年会。長年、祭りや伝統行事の活動を通して地域に貢献してきた。しかし、コロナ禍で様々な行事が休止となり、会の存続が危ぶまれた。番組では、持続可能な集落を目指して立ち上がった青年会活動を丁寧に記録している。若者が地域で連携し、起業する明るいメッセージが伝わってくる作品だ。現状を打破したいと取り組んだのが、休耕田でスパイスのコリアンダーを栽培し、新潟市内の福祉施設と連携したオリジナルのレトルトカレー(「農福連携カレー」)の販売だった。同時に番組では、小学校の廃校、コロナ禍での行事自粛、障がい者施設との連携、関係人口などの多様な要素が取り込まれており、地域の光と影もそのまま描かれている点も好感がもてる。
●やまコレ「食べる喜びをもう一度~鶴岡 えん下のグルメ~」(NHK山形放送局)
病気や加齢で食べ物を飲み込みづらくなった人たちへ、食べる喜びをもう一度味わってもらいたいと、地元食材を生かした特製の「えん(嚥)下食」を作るホテル料理人に密着したドキュメンタリー番組。国内唯一のユネスコ食文化創造都市・山形県鶴岡市ならではの実践活動で、その背景にある思いがストレートに映像化されている。対象者やその家族の「食べる喜び」は、映像でなければ表現できない。同時に「農業が食べることを支える産業である」ことを改めて考えさせられ、「食べることと生きること」の根源を問う観点からも優れた作品だ。地元の医療や福祉従事者と連携し、「えん下食」を通して高齢者や病人向けの食事のあり方を提案する中で、「食事」という日常行為の尊さを伝えてくれる。食育の視点からも高く評価される。
●柳原一德著 「本とみかんと子育てと~農家兼業編集者の周防大島フィールドノート」 みずのわ出版
神戸市生まれの著者は、新聞・放送記者生活を経て、阪神大震災後に出版社を創業。2011年には東日本大震災を機に、41歳で母方の実家の周防大島(山口県)に移転した。本書は、ミカン農家兼出版編集者として998日にわたって島の生活、コロナ禍の島の暮らしの変化、子育て、ミカン園を巡る日々の奮闘ぶりを綴った「日録」で詰まり、写真250枚、600ページを超える新しいタイプの異色の大著だ。また、この長編の中に盛り込まれている様々なテーマ・用語を巻末の「索引」でまとめるなど、編集者としての力量も発揮されている。苦労が絶えない中、地に足をつけた実践者としての視点はしっかりしている。著者の人間的魅力にも感動する。暮らしと農業は切り離せず、ミカンを守らないと島が沈む、という信念が伝わる。
<選考委員>=五十音順
阿南 久 (一社)消費者市民社会をつくる会代表(元消費者庁長官)
合瀬 宏毅 (一社)アグリフューチャージャパン理事長(元NHK解説主幹)
小田切徳美 明治大学農学部教授(大学院農学研究科長)
榊田みどり 明治大学農学部客員教授 農業ジャーナリスト
三森かおり (有)ぶどうばたけ取締役
(本件に関する問い合わせ先)
〒100-6826 千代田区大手町1-3-1JAビル26階
農政ジャーナリストの会事務局
電話:03-6269-9772
携帯:090-4960-6353(竹村)
以 上