第36回農業ジャーナリスト賞の決定について
農政ジャーナリストの会は、前年(2020 年1月~12 月)に発表された農林水産業、食料問題ならびに農山漁村の地域問題などに関するジャーナリストの優れた功績(ルポルタージュ、連載企画、出版物、放送番組など)を表彰しています。
今回は新聞・書籍部門から 5 点、テレビ・映像部門から 14 点、計 19 点の応募がありました。この中から、農政ジャーナリストの会が委嘱した選考委員会の審議を経て下記の 3 作品が選ばれました。
<受賞作品>
・北海道テレビ放送 「たづ鳴きの里~タンチョウを呼ぶ農民たちの 1500 日~」
・福井放送 「FBCスペシャル2020 大地のバトン~土に希望の種をまけ~」
・大西暢夫著 「ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡」㈱彩流社刊
●北海道テレビ放送「たづ鳴きの里~タンチョウを呼ぶ農民たちの 1500 日~」
かつて絶滅寸前まで追い込まれた国の特別天然記念物のタンチョウヅルのヒナが札幌市近郊の農村の「遊水地」で確認された。この裏には遊水地にツルを呼び戻し、繁殖させようとする農民たちの挑戦があった。ツルを呼んで町おこしを願う地域の活動を5年間にわたって長期取材した心温まるドキュメント。貴重なヒナの撮影にも成功した。農家に寄り添って番組を作っている。見る人を飽きさせない。作り方もうまい。生きものに対する農家の心情が丁寧に丹念に描かれている。四季折々の田園風景の映像も美しい。人々の愛が伝わる感動的な作品だ。好感がもてる。
●福井放送「FBCスペシャル2020 大地のバトン~土に希望の種をまけ~」
様々に問題視される外国人技能実習生制度だが、本来の制度目的の側面がきちんと活かされるケースもあることを示した点で評価できる。テーマ設定がいい。技能実習生問題に一石を投じた作品だ。技能実習生を「国を超えたバトン」としてとらえ、それを追いかけた秀作。単なる労働力ではなく本当の研修生としてインドネシア人の若者を育てる情熱と能力に敬服する。良質なドキュメント番組に仕上がった。
受け入れ農家(44歳)の思いがよく伝わり、心温まる。農家の人柄、経験も踏まえ、丁寧に描いている。長期間のロケで地域しかできない番組だ。研修生の表情も明るいのがとても良い。広い視野から日本国内にとどまらない世界の農業の後継者作りを考えさせられる。この農園には国境がない。
●大西暢夫著 「ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡」㈱彩流社刊
全国に2700を超える数のダムがあるが、公共事業という名の下に開発の波に呑まれ沈んでいった村の一つひとつにこうした物語があることを教えてくれる。カメラマンの著者は、日本最大のダムに沈んだ岐阜県旧徳山村を、ダムが沈む前から30年も定点取材を続けてきた。そこから見えてきた「民衆の歴史」は驚くべきもので、村に最後まで暮らした老婆から聞き取り続けた「長い長い足跡」を追跡したルポ。その取材の筆致の精緻さは特に印象的だ。
老婆の家族を含めた日常を活写することで「村を手放すことの重みや深み」の問い直しに成功している。写真もプロのもの。時間も足(現地取材)もふんだんに使った労作で感動的だ。
<選考委員>=五十音順
阿南 久 (一社)消費者市民社会をつくる会代表(元消費者庁長官)
合瀬 宏毅 (一社)アグリフューチャージャパン副理事長(元NHK解説主幹)
小田切徳美 明治大学農学部教授(大学院農学研究科長)
甲斐 良治 (一社)農山漁村文化協会編集局
榊田みどり 明治大学農学部客員教授、農業ジャーナリスト
三森かおり (有)ぶどうばたけ取締役
(本件に関する問い合わせ先)
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